ジャパン・イン・フォーカス

地政学リスク警戒する海外投資家、日本株にシフトか 「一時的ではない」との声も

日本株にかつてほとんど興味を示さなかった海外投資家が、いま注目し始めているのは驚くことではない。デフレ脱却が見え、企業のガバナンス改善も進む。地政学リスクが高まる中国からの資金流出の「受け皿」として有望とされ、海外からの資金流入は「一時的ではない」との声も出ている。

欧米投資家は、ESGと地政学の観点から中国市場関連のリスクプレミアムを考慮するようになっている。米調査会社CORBŪ社の創業者でマネージング・パートナーのレネ・アニナオ(Renè Aninao)氏は、地政学リスクが増大する中国市場から資本流出が起こっており、アジア諸国の中で日本株が最も恩恵を受けると分析する。

 

2023年11月14日に開催された第17回グローバル・フィデューシャリー・シンポジウムのなかで行われたTop1000fund.comとのインタビューでアニナオ氏は、「投資家の間で、中国市場以外の他のアジア市場への投資を増やす傾向が強まっている。マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど他のアジア諸国と比べ、日本や韓国は市場規模が大きく洗練されているため、魅力的な投資先として浮上するだろう」と述べた。

 

「4カ国(マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム)の政治体制は盤石でなく、中国から流出する可能性ある膨大な資金をすべて受け入れて、吸収できるだけの市場規模もない。そのため日本がその恩恵を受けるだろう」とアニナオ氏は話す。

 

米中貿易問題や、新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、中国と台湾の政治的緊張、そしてイスラエルとパレスチナの対立の激化は、世界の地政学的ブロックを作り変えてしまった。

 

新しい地政学ブロックの形成によって、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)の同盟国が採用する政策の枠組みも変化を迫られている。この変化は、投資家のリスク回避姿勢を強める一方で、地域再編によって世界的な資本支出サイクルを生み出し、特にデジタル産業化が大きく進展する中、新たな投資機会が数多く生まれている、とアニナオ氏はみる。

 

アニナオ氏は、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が近年、日本株への投資を増やしている一方で、台湾と中国との不測の事態に備えて、台湾の大手半導体メーカーのTSMCの株を売っていると指摘。「バフェット氏は、日本の証券会社や商社に投資する必要があり、この傾向はさらに強まるとみている。欧米投資家がリターンを追求する中、日経平均株価の上昇が資金流入をさらに加速させるだろう」との見方を示した。

 

<日本株市場に「地殻変動」との見方>

 

日興アセットマネジメント株式会社グローバル営業企画部、部付部長の中野次朗氏は、年初から日本株の堅調さは海外投資家の貢献が大きいとみる。日経平均株価は今年、33年ぶりに3万3000円台のバブル崩壊後高値を更新したが、海外投資家の日本株投資は、過去14年間で最も活発だったという。

 

中野氏は、15日のグローバル・フィデュシャリー・シンポジウムの基調講演で、海外投資家は米国の金利上昇に伴い、米国株への投資に慎重になっていると指摘。中国の不動産市場に対する懸念から中国株への魅力も薄れ、その結果、日本株に買いが入っていると述べた。

 

「今回の(株価)上昇は、一時的なものと見る向きが一般的だが、私は違った見方をしている。いま、日本の株式市場に大きな地殻変動が起こっていて、マグマが爆発する寸前だと捉えている」(中野氏)。

 

中野氏はアニナオ氏と同様、2020年8月にバフェット氏が日本株への投資を発表したことが象徴的だったと話す。国内商社株のバリュエーションの低さに惹かれたバフェット氏は、このセクターに多額の投資を行った。それ以来、商社株は2倍、3倍と急騰している。

 

インフレと賃上げが日本の再成長をもたらし、割安な状況が続いている日本株に投資家の目が向けられるという。これらの要素が組み合わさることで、海外投資家が日本市場を有利な投資先として検討する環境を作り出していると、中野氏は指摘している。

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